乳がんの治療
乳がんのサブタイプについて
がん細胞の性質によって、乳がんを分類したものを「サブタイプ」と呼びます。このサブタイプは病理検査(組織診)で、がん細胞の表面にあるタンパク質を調べて判定します。
乳がんの女性ホルモンに反応する受容体(ER:エストロゲン受容体、PgR:プロゲステロン 受容体)と、上皮細胞増殖因子に関わる受容体(HER2タンパク)の発現状況、細胞増殖の程度 (Ki-67)により、サブタイプを分類します。ホルモン受容体陽性タイプは総じてルミナルタイプ と呼ばれ、乳がん全体の約70%を占めます。
タイプ毎に、薬の反応性や増殖する力の強さなどが異なりますので、サブタイプに基づいて、ホルモン療法(内分泌療法)や抗がん剤療法(化学療法)、分子標的療法(抗HER2療法)などから適切な薬物療法を選択していくことになります。
局所治療と全身治療
乳がんは、がんが乳房に発生してから血液・リンパの流れに乗って転移します。がんが、体の別の部位にいる可能性があるため、「局所治療」と「全身治療」を上手く組み合わせて治療を行います。
どの治療を選択するかは、「がんのサブタイプ」、「がんの進行度合い(ステージ・病期)」、「治療を受ける体全体の状態」を総合的に判断して、一人ひとりに最良と考えられる治療を選択しています。
局所療法
●手術療法
●乳房温存術
●乳房全切除術
●わきのリンパ節の手術
●乳房再建術
●放射線療法
全身治療
●化学療法
●ホルモン療法
●分子標的療法
手術療法
乳房温存術(乳房部分切除術)
乳房温存術はがんとその周りの正常な乳腺組織を、部分的に切除します。正常な組織は安全域として切除します。切除する範囲が広いほど温存した乳房の変形する 度合いが強くなります。乳房は元通りになるわけではなく、切除部位によっては、軽度の陥凹を伴 う場合もあります。
また乳房温存術を行った場合は、術後に乳房内再発のリスクを避けるため、放射線治療を行います。
乳房全切除術
乳房内にがんが広範囲にある場合や、同じ乳房にがんが多数認められた場合などには、乳房全切除術が行われます。胸筋を残し、一部の皮膚と乳房を全切除します。胸筋を残す方法なので、手術の後にろっ骨が浮き出ることはありません。
乳房切除術の場合には同時に乳房再建術を行うこともできます。
わきのリンパ節の手術
●センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節は、乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリンパ節と言われています。このセンチネルリンパ節を摘出し、さらにがん細胞があるかどうか(転移の有無)を、手術中に調べる一連の検査をセンチネルリンパ節生検と呼びます。原則として、手術前に腋窩リンパ節転移がないと診断されている方が対象となります。センチネルリンパ節に転移がなければ、ほかのリンパ節にも転移はないと考え、それ以上のリンパ節切除は行いません。
●腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)
手術前に腋窩リンパ節転移が診断されている方や、前述したセンチネルリンパ節生検でリンパ節転移がみつかった方を対象に行われます。腋窩リンパ節を一塊に切除する方法です。
乳房再建術
乳房再建は、手術によって失われた乳房を新たに作る方法です。
人工の乳房を筋肉の下に埋め込む方法(人工乳房、インプラント法)や、背中やお腹の脂肪や筋肉の一部を胸に移植する方法(自家組織再建)があります。
再建の方法や時期などは一人一人の乳がんの状態や患者さんの希望を考慮して、形成外科医(乳房再建医)と相談のうえ最適な再建方法を選択しています。
放射線療法
乳房部分切除術を行った後は、乳房内の再発を予防するため温存した乳房に放射線を照射します。
乳房全切除術を行った場合でも、5cmを超える大きさの乳がんやリンパ節転移が多数認められた場合は、治療効果を上げるために胸壁や腋窩、鎖骨上周囲などへ放射線をあてることがあります。
※放射線療法が必要な場合は、連携施設にて行っています。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤を使って治療する方法です。
乳がんの化学療法は、1種類の抗がん剤を用いるよりもいくつかの抗がん剤を組み合わせることで効果が増強します。これを「多剤併用療法」といいます。
抗がん剤は投与すると体のダメージが大きいため、一定の休薬期間を取りながら繰り返します。
化学療法の副作用には、白血球減少、脱毛、吐き気、胃腸などの消化器粘膜への影響(口内炎や下痢)、手足のしびれ、むくみ、爪の変化などがあります。これらの副作用の程度は薬剤によって異なり、また個人差があります。
術前化学療法
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手術前に行う化学療法のことです。
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腫瘍を縮小させることによって乳房温存術の適応が拡大し、温存率が向上する、あるいは切除不可能な大きさのがんを切除可能な大きさにすることができます。(腫瘍が縮小しても、必ず乳房温存術が可能となるわけではありません)
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化学療法の効果を直接確認することができます。
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全く効果がない場合、治療を早めに中止したり、ほかの薬剤へ切り替えたりすることもありま す。
術後化学療法
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手術後に行う化学療法のことです。摘出した組織を病理検査で調べ、化学療法の適応を決めます。
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早期の乳がんでは多くの場合、転移・再発を防ぐ目的で術後に化学療法を行います。
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術前化学療法を行っても、術後の病理検査結果によっては、経口抗がん剤を投与する場合もあります。
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ご高齢で点滴での化学療法(抗がん剤治療)が難しい場合には、内服抗がん剤を投与する場合もあります。
ホルモン療法(内分泌療法)
乳がんには、がん細胞の増殖に女性ホルモンを必要とするものがあり、乳がん全体の約7割を占めています。このような女性ホルモンで増殖するタイプの乳がんに対しては、女性ホルモンの働きを抑える「ホルモン療法(内分泌療法)」の効果が期待できます。
閉経前と閉経後では、体内で女性ホルモンが産生される経路が異なるため、使用する薬も別々のものを使用します。また、ホルモン療法は、副作用が少ないという特徴がありますが、効果が出るまでに時間がかかりま
す(1〜3ヶ月位)。手術後、長期間(2〜5年間、最近では10年間投与も報告されている)継続して治療することで、再発の予防効果が期待できます。
ホルモン療法は、女性ホルモン(エストロゲン)を抑えることで効果を発揮するため、副作用として、更年期障害と同様な症状が現れやすくなります。
分子標的療法
がん細胞に特異的または過剰にあらわれる特定のタンパク質を、ねらい撃ちする治療法です。
この療法は、がん細胞に選択性が高いため、従来の抗がん剤に比べて毒性が低く、また従来の抗がん剤と併用することによって、がん細胞の増殖抑制効果が上がります。